本研究目的は,傷が消失する映像の手に対する身体所有感の操作により,疼痛閾値がどのように変 化するかを検討することである。健常成人 14 名に対して 2 つの介入を行った。介入 1 では変化し ない傷手の映像「非治癒」の映像を用いて,傷手を所有しているという錯覚が生じると疼痛閾値が低 下するかを検討した。介入 2 では,傷手の傷が消失する「治癒」と「非治癒」の映像を用いて,身体所有 感を付与した傷手の傷が消失していく様子を観察することで疼痛閾値が上昇するかを検討した。介 入 1 前と介入 1・2 後で,表皮内電気刺激で測定した疼痛閾値と質問紙による身体所有感の錯覚強度 を評価した。結果より,介入1の「非治癒」に錯覚が生じた条件のみで疼痛閾値は有意に低下し,介入 2 の「治癒」に錯覚が強く生じた被験者のみで疼痛閾値が有意に上昇した。本研究結果は,身体所有 感を付与した手の傷が消失する映像の観察により疼痛閾値が上昇することを示唆している。