研究活動として力を入れてきたのは、第一に地域福祉の主体形成の理論化と、それを進める福祉教育実践方法の研究です。修士論文では福祉コミュニティを構築する際に求められる住民の主体形成のあり方を理論的に検討し、地域福祉の主体形成の構造的把握を試みました。また社会福祉協議会等の行う福祉教育実践に関わり、福祉教育プログラム開発や、福祉教育プラットフォームのあり方についても実践的に研究してきました。第二に、地域福祉は優れて思想的・価値的実践であるという認識から、地域福祉の基盤となる思想・哲学的研究にも力を入れてきました。博士論文では、大橋謙策が提唱したケアリングコミュニティ概念を思想・哲学的に精緻に研究し、人間の存在論的本質として「ケア」という行為が位置づけられること、また「ケア」は人間の生きる意味の源泉となること、同時に「ケアへの責任」は人々に必然的に重荷として圧し掛かることになるという、ケアの本質、意義、限界を明らかにしました。そして人々が地域の中で「ケアリング」を通して互いの生きる意味を豊かに生み出しつつ、コミュニティの中でそのケア負担をどのように分かち合うことが妥当なのかを基礎づけるケアリングコミュニティ概念を検討しました。第三により具体的な地域福祉の実践課題に関する研究も行ってきました。例えば、重度障害者の地域での自立生活について、自立生活を営む当事者のインタビューやアンケートから、その条件を一定程度明らかにすることが出来ました。貧困に陥る高齢者の研究では、高齢者が貧困に陥るプロセスを事例から明らかにし、高齢化に伴う何らかの引き金となる事象が、その人の個人的要因と環境的要因との相互作用の結果、様々な形で生活困窮を生み出すことを一定のプロセスモデルで把握しました。医療・福祉資源の乏しい地域における終末期ケアのあり方についての研究では、そのような地域の医療・福祉関係者へのアンケート調査を通して、患者や家族に寄り添った支援を多職種連携で行うことにより、ケアの質を一定保つことができるが、医療・福祉資源の不足は当事者の意志に沿った支援の選択肢を狭めるため、やはり大きな課題になることを明らかにしました。