【はじめに・目的】Rate of torque development(RTD)とは瞬間的な筋力発揮能力のことであり、姿勢保持やスポーツ活動に必須の筋機能である。これまでは、オンセットから100ms未満でのRTDには神経活動が影響し、その後のRTDには筋機能が影響すると考えられてきた。また、RTDの個人差には動員される運動単位の違いが影響すると報告された。しかし、同一個体における異なる筋間でのRTDの関連性は不明である。さらに、RTDには腱張力-伸張量関係の線形領域における腱stiffnessが影響する。しかし、低張力域での腱力学的特性とRTDとの関連は明らかにされていない。そこで本研究の目的は、個人内での膝伸展筋と足底屈筋との間でのRTDの関連性を検討することに加え、RTDと様々な張力域で算出された腱stiffnessとの関連性を明らかにすることである。【方法】活動的な健常男性14名を対象に、膝伸展筋および足底屈筋のRTDと腱stiffnessを計測した。RTDは、瞬発的な最大随意等尺性収縮を行った際のトルクのオンセットから50ms(RTD0-50)、50-100ms(RTD50-100)、100-200ms(RTD100-200)の区間で算出した。腱stiffnessは、ランプ状等尺性収縮中の張力と腱伸張量の関係における最大随意収縮(MVC)の25–45%(Stiffness25-45)、30–70%(Stiffness30-70)、50–100%MVC(Stiffness50-100)の区間で算出した。【結果】膝伸展筋と足底屈筋との間での各RTDの有意な関連性は、RTD100–200でのみ認められた(r = 0.579, P = 0.024)。膝伸展筋と足底屈筋の両方で、すべての腱stiffnessはRTD100–200と有意な相関関係を有した(r = 0.549–0.638, P < 0.05)。さらに、25-45%および30-70%MVCでの高い腱stiffnessは、早期(0–50msまたは50–100ms)RTDの大きさと関連した(r = 0.560–0.569, P < 0.05)。【考察】本研究結果は、神経活動が影響していると考えられる区間のRTDは同一個体であっても筋によって異なることを示した。さらに、早期RTDには、低張力域の腱stiffnessが影響している可能性が示唆された。【結語】RTDの改善には、神経系の適応だけではなく、腱stiffnessを高める介入が効果的であるかもしれない。
石垣智恒、井野拓実、石田知也、奥貫拓実、横山寛子、江玉睦明