スポーツ選手にとって膝前十字靭帯(ACL)再建術後リハビリテーションの最大の目標は受傷前の競技レベルへの安全な復帰である。しかし実際は競技復帰後の再損傷が高頻度で発生しており、再損傷予防に対する術後リハビリテーションの取り組みは未だ十分とは言えない。再損傷予防を目的としたリハビリテーションの実施にあたっては、ACL再損傷を誘発する各動作や受傷場面の下肢・体幹バイオメカニクスの理解が必須であり、その上で危険肢位の回避を目的とした動作評価・指導が行われるべきである。これまで弘前大学医学部附属病院では、競技復帰前の選手を対象として三次元動作解析法による基本動作の評価を行い、解析結果から再構築したスティックピクチャをディスプレイに投影しながら結果の提示と指導を実施してきた。本法は視覚的フィードバックが可能であるため患者理解が得られやすく、定量的分析により指導効果の判定が可能な方法である。一方で専用機器が必要で時間的制約が大きいため日常的使用は難しく、日常臨床ではセラピストの目視による動作評価に基づき指導が行われていた。この問題点を補い日常臨床で簡便に視覚的フィードバックによる動作評価・指導を可能にする方法としてデジタルミラーを2018年より導入した。同時に競技復帰までの術後リハビリテーションを5つのステージに分類し、各ステージに到達基準を設け達成後に次のステージへ進むプロトコールへ変更した。到達基準の一つとしてデジタルミラーを用いた基本動作の評価を実施している。客観的指標による動作評価の定期的な実施や視覚的フィードバックを応用した動作指導は、患者への危険肢位の理解と再損傷予防に対する意識付け、動作習得に有用であると考える。本発表ではACL再損傷予防を目的とした術後リハビリテーションの取り組みを紹介するとともに、再損傷予防に必要なバイオメカニクスとそれに基づいた動作評価・指導の現状について報告した。
横山寛子, 逸見瑠生, 瓜田一貴, 髙田ゆみ子, 前田和志, 斎藤有紀, 増野夏香, 葛原康介, 四戸大地, 塚本利昭, 三浦和知, 木村由佳, 石橋恭之, 津田英一