本研究の目的は、旧教育基本法における教育理念の形成に直接的な影響を与えた務台理作の戦後におけるヒューマニズム論の展開を検討し、その内容と、三項図式に基づく戦後教育理念との関連を明らかにすることである。務台のヒューマニズム論に関しては、戦後における務台の「ヒューマニズム論の樹立」を、「西田哲学や現象学・実存哲学の哲学研究者から、人間の現実生活に向き合いそれを原理的に思索する哲学者への飛躍を示した」ものと捉え、務台のヒューマニズム論を「戦後日本の哲学と民主主義の見事な結合の成果」であるとの指摘がある。一方で、ヒューマニズムに関する議論自体は、1930年代中盤に西田幾多郎や、その周辺の人々によって既に展開されており、務台のヒューマニズム論に、「社会的・歴史的規定としての環境(マルクス主義)と実存としての主体(キルケゴール)の絶対矛盾的自己同一の在り方に歴史的創造の原理を見いだすという西田」の論理からの影響が読み取れる、との指摘もなされている。こうした戦後の務台におけるヒューマニズム論は、戦時中の思想の「発展」として捉えることができるとの理解もある。このように、務台のヒューマニズム論について、戦中戦後の連続・非連続という点を中心に、先行研究の評価は若干異なっているが、その内容自体の重要性の認識については一致している。そして、こうした務台におけるヒューマニズム論は、旧教育基本法を中心とする戦後教育理念の理解にも影響を及ぼしていったものと考えられる。しかし、これまでの先行研究においては、務台のヒューマニズム論と戦後教育理念との関連について十分な検討がなされていない。そこで本研究は、その関連性を三項図式の観点を踏まえて分析することで、戦後教育理念の捉え直しを図った。なお、本研究はJSPS科研費23K02166の助成を受けたものです。