【緒言】脳卒中片麻痺者における活動や参加において, 身体機能や歩行能力は重要であるが, これらの機能は歩行やバランスに対する本人の主観的評価を介して, 活動や参加に影響を与えることが明らかにされ, 本人の主観的評価の重要性を示している。臨床では, 歩容にアプローチし, 歩行機能の向上を図ることが多い。しかし, 歩容と主観的評価の関連性は報告が少ない。本研究の目的は脳卒中片麻痺者の歩容を含めた歩行機能, 身体機能と歩行に関する主観的評価の関係性を検討することである。
【方法】対象は脳卒中片麻痺者22名 (67.8 ± 11.7歳) とし, 全ての計測は退院月の同日に実施した。歩行に対する主観的評価はVASを用いた。質問はVAS1「屋内 (平らな床)で歩くのは難しいですか」, VAS2「1人で歩くのは怖いですか」, VAS3「歩く時にふらつきを感じますか」とした。紙面上の100mmの直線に対象が印を記入し質問の回答を得た。いずれの質問も0を強い否定, 100を強い肯定の単極型とし, 0からの距離を計測した (Elhadi, 2018)。歩行測定は快適歩行を2回実施した。計測には慣性センサーを使用し, 矢状面上の両股・膝・足関節の歩行中の関節角度を算出した。また, 歩行定常性は骨盤加速度の自己相関関数を歩行周期時間分タイムラグした値とした。さらに, 骨盤加速度の二乗平均平方根を歩行速度の二乗で除した値をRMSとした。評価項目は身体機能として, 下肢のFMA, BBS, FIM, 歩行機能は, 歩行速度, 6分間歩行距離, 関節角度, 水平・前後・鉛直方向の定常性およびRMSとし, VASと各パラメーターの関連性を検証した。統計学的検定は,関連性を検討するためにスピアマンの順位相関係数を用い, 有意水準は5% 未満とした。
【結果】歩行速度は0.97 ± 0.24m/s, VAS1は13.0 ± 15.2mm, VAS2は14.4 ± 14.3mm, VAS3は13.3 ± 12.4mmであった。VAS1と麻痺側股関節伸展角度 (rs = -0.530, p = 0.011), 定常性の水平 (rs = -0.498, p = 0.018)・前後 (rs = -0.490, p = 0.020)・鉛直方向 (rs = -0.451, p = 0.035) で有意な関連を認めた。VAS2と有意な関連を示す項目はなかった。VAS3とFMA (rs = 0.444, p = 0.038), RMSの前後 (rs = -0.444, p = 0.038)・鉛直方向 (rs = -0.592, p = 0.004) で有意な関連を示した。
【結論】歩容の改善は歩行に対する主観的評価の向上に寄与する可能性が示唆された。