英文学者でもあった夏目漱石の英文学論を考察し、特に彼が「写実の泰斗」、「則天去私の小説」と高く評価したジェイン・オースティンとの比較研究を行っている。漱石が「則天去私」の境地へと達したとされる晩年、未完に終わった最後の小説『明暗』において、どのような小説創造の模索に挑んでいたのか、「則天去私」的小説とはどのようなものだったのかを探っている。また、漱石が英文学を捉えている中で、イギリス・ロマン派詩人、ヴィクトリア朝詩人やアメリカ民主主義の代表詩人ウォルト・ホイットマンらをどう英文学史の中に位置づけていたのかを整理し、そうした英文学者としての着眼点が自身の創作活動においてどう作用しているかを探りながら、漱石の小説を比較文学的観点から考察している。