ジェイン・オースティン(1775-1817)小説の演劇性、特にその喜劇性について、従来指摘されてきたウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)をはじめ、王政復古劇や18世紀演劇との関連性を踏まえながら、言語芸術と視覚芸術の交叉に焦点を当ててオースティン小説の演劇性について考察している。18世紀に新たな文学ジャンルとして登場した小説と挿絵において、初期挿絵は観客を意識した演劇的構図で描かれており、一方絵画では、ロイヤル・アカデミー初代会長サー・ジョシュア・レノルズ(1723-92)をはじめ、多くの画家が十八番の役に扮した女優たちの肖像画を盛んに描いていた。<!--[if !supportFootnotes]--><!--[if !supportEndnotes]-->文学テクストにおいて言語芸術と視覚芸術が交叉する関係性は、テクストに添えられた挿絵による言語描写の視覚イメージと、絵画的イメージを言葉で描写する言語化があろう。文学と絵画の相関関係であるエクフラシス分析は主に詩と絵画との関係性において行われてきたが、言葉による鮮やかな描写で登場人物の生き生きとした視覚イメージを喚起する小説の絵画的手法は、「視覚芸術の文学的表象」(ヘファーナン)とするエクフラシスに当てはまると言えだろう。こうした中で、オースティン小説では自由直接話法による登場人物たちの機知に富んだ軽妙な会話を多用し、読者とのメタ演劇的共謀によってその演劇的世界を構築している。本稿では、オースティン小説の中で最も演劇的小説とされる『高慢と偏見』において絵画的表象と演劇的表象とが密接に結びついていることを明らかにし、サラ・シドンズ(1755-1831)ら当代の「女優(悲劇/喜劇のミューズ)の肖像画」のイメージと対峙する形で 主人公エリザベスの喜劇女優的魅力を考察している。 |