本稿は大英帝国の拡大に伴うジェントルマンの変容を踏まえながら、ジェイン・オースティンの作品におけるジェントルマン的商人の表象を考察している。銀行家の兄ヘンリーの伝記的事実とオースティンの小説との関連性を追いながら、作中に描かれる商人の特徴をまとめ、商業社会におけるジェントルマンの特性を考察している。特に『高慢と偏見』のロンドン・シティの商人ガーディナー氏とダービーシャーの大地主ダーシー氏の協働の中に、ジェントルマン資本主義の萌芽を見出している。そして最終的に、純真無垢で豊かな感受性を持った幼子のいる幸福な家族像を付与することによって、商業社会におけるジェントルマンをオースティンが肯定的に描き出していることを明らかにしている。