本稿は職場で不適応となった回避傾向のある成人男性との面接過程の報告である。クライエントは広汎性発達障害の傾向がみられ,職場における対人関係の難しさを抱えていた。仕事が忙しくなるのではと不安になり,仕事の指示をした上司に「できません」と即答してしまったり,遠方に逃避してしまったりといった回避行動がみられ,職場で孤立するようになった。その結果,職場不適応に陥り,入職1年程度での退職を繰り返していた。心理面接開始当初は職場への不満や退職後の進路などについて話していたが,クライエントはどこか他人事のようであった。その後,クライエントはセラピストとの安定的な関係性が構築されるに伴って,自分自身の感情や過去の振る舞いについて実感を伴った振り返りを行うようになっていった。その後,就職先が決まり,新たな職場での体験を通じて社会人としての自覚や会社の一員としての意識(他者と協力して業務を遂行する),主体的に業務や他者にかかわっていく姿勢を獲得していった。