慢性疼痛診療では、強い痛みの訴えに加え、過剰要求行動や信頼関係構築の困難といった対人関係上の問題が併存し、治療を難渋させることが少なくない。演者は心理専門職養成と並行して麻酔科において慢性疼痛、がん疼痛の診療に携わっているが、こうした困難は多職種に共通して認められる。とりわけオピオイド鎮痛薬の不適切使用に至った患者では、執拗な処方要求や「ここで無理なら別の病院でもらう」「死んでもよいから薬をのみたい」といった切迫した訴えがみられ、医療者は戸惑いや職業的無力感を抱きやすい。このような状況は医療倫理の原則を揺るがし、診療上の判断をさらに不安定にする。
背景のひとつとして、ケミカルコーピングにより気持ちのつらさが一時的にマスクされ、「信用できるのは薬だけ」という認知が強まる構造がある。その結果、他者への援助希求は一層困難となる。また慢性疼痛患者では「痛くて○○できない」という痛覚的訴えが表出される一方、「つらくて○○できない」といった情緒表現は抑制されがちである。この特徴は本心の開示に伴う不安や防衛的対人スタイルとも関連し、過剰要求行動の基盤となりうる。
心理的介入として、認知行動療法や感情調節支援などが選択肢となるものの、①心理・社会的問題の否認、②認知・行動変容への低い動機づけ、③「痛みで受診しているのに心理の話をされる」ことへの抵抗、といった限界も少なくない。したがって心理的介入の万能視は避け、アセスメントに基づく慎重な適応判断が求められる。
並行して、患者支援と併行して医療者支援を位置づけることも重要である。過剰要求行動への対応は疲弊や燃え尽きを招きうるため、困難事例を抱える医療者の心理的負担に目を向けること、公認心理師の職責である「関係者支援」に照らしても重要である。
本シンポジウムでは、要求行動の心理学的理解を手がかりとして、患者と医療者双方を守る支援の在り方を検討した。