演者は現在、公認心理師として、麻酔科におけるがん疼痛や慢性疼痛の患者の診療に携わっている。臨床場面でしばしば直面するのが、オピオイド鎮痛薬の不適切使用と、それに伴う退薬症候である。本発表では、麻酔科領域における心理専門職の視点から、臨床で遭遇するオピオイド不適切使用と、その背景にある心理社会的要因、退薬症候について紹介したい。
オピオイド鎮痛薬は、その強力な鎮痛作用から疼痛治療において欠かせない薬剤である。一方で、感情や認知機能、行動にも影響を及ぼし、身体的苦痛のみならず、精神的苦痛をも覆い隠してしまう可能性がある。いたみという感覚はもちろん、精神にも影響を及ぼすことが不適切使用の本質であり、ケミカルコーピングの形成につながるといえよう。
実際、精神的苦痛を抱える患者の中には、オピオイド鎮痛薬によって、精神的なつらさの一時的な軽減を得ている例もある。使用を続ける中で、疼痛緩和以外の目的でも薬剤を用いるようになり、やがて耐性が形成される。用量が増加しても十分な効果が得られず、不安や焦燥感が高まることもある。
用量の増加に不安を抱き、医師に相談せず自己判断で減量を試みる患者もみられる。その過程で退薬症候を体験し、「二度と同じ苦しみを味わいたくない」という想いから、再使用、そして増量に至るという悪循環が形成される。こうした経過をたどると、薬剤からの離脱は一層困難となり、不適切使用が慢性化する可能性がある。
背景には、疼痛管理が不十分なことに加えて、セルフ・スティグマや社会的孤立など、さまざまな心理社会的要因が関与している。患者の中には、そうしたつらさを抱えながら、誰にも相談できずに自己判断を試みる例も少なくない。退薬症候と依存の悪循環は、こうした背景のもとで繰り返されることがある。
対応にあたっては、不適切使用という行動面にとどまらず、その背景にある心理・社会的側面への丁寧なアセスメントと支援が不可欠である。特に処方薬への依存という医原性の側面を踏まえ、心理専門職としては、身体的側面とあわせて心理的支援の重要性をあらためて提起したい。