従来のように、災害危険個所を確認する防災まち歩きを行って地域のハザードマップを作成しても、身近な地域に潜む真の自然災害リスクを適切に判断し、地域防災力向上に資する自然災害リスク情報を多くの住民間で共有することは難しい。本研究はこれらの問題点を解決するために、住民が普段から意識している地形観に発達史的観点から見た地形観を付加していく防災まち歩きを行うことで、水害リスクが高い谷の存在を地域の日常風景の中に違和感なく組み込むことを目的とした。その結果、これらの地形発達史的観点を取り入れた防災まち歩きが、地域の新たな発見とともに、自然災害から命を守るための知識を多くの地域住民間で無理なく共有できる水害リスク・コミュニケーションの手法として有用であることが示唆された。今後、より多くの住民が水害リスクマネジメントに関心を持ち、さらなる地域防災力向上を目指して主体的に防災実践を行っていくためにも、本研究が示した「地形発達史の観点を取り入れた防災まち歩き」を継続していくことが重要と考えられる。