『法華経』提婆達多品における龍女成仏説話は、最澄によって即身成仏を成就する密教的行法とされて以来、台密における即身成仏思想の拠り所として重視されてきた。如上の即身成仏思想は性差を超えた境地としての即身成仏を目指すものである。しかし、女性の穢れを排除する当時の寺院内では、女性の即身成仏は命終もしくは出家によってしか実現し得ないという限界があった。一方、龍女成仏説話を詠み込む『梁塵秘抄』法文歌は、女性を劣者とする観念を受け容れ、生と性とを享受しつつ即身成仏を志向する点で、新たな形での「真言」の機能を有し得るものであると評価できる。
pp.31-38