本稿では、初期軍記物語『将門記』における将門の乱の歴史的評価の分析を通じて、古代日本における中央と地方の関係を明らかにすることを目的とした。『将門記』における「中央(平安京)―地方(常陸国)」という構図の背後には「公―私」、さらに当時の東アジアの不安定な情勢を反映した「日本―東アジア(「東丹国」など)」という対立項が内包されていた。『将門記』では前者に対する後者の優越という絶対的な価値基準に基づいて天慶の乱が評価され、冥衆の加護を裏打ちとして王権が安定化されると考えられていた。
pp.34-52