鑑真門下の律僧・法進著『沙弥十戒幷威儀経疏(以下『威儀経疏』と略記)』では、戒律の内容と直接関係のない「坐禅」に関する詳細な説明が、天台止観行の初歩的な入門書である『天台小止観』から大幅、かつ詳細に引用されている。注釈者である法進は『威儀経疏』の実践により涅槃の境地に至ることが出来ると考えたが、本来『威儀経』に説かれる十戒は、涅槃に遠く及ばない人天果しかもたらすことができない。そこで法進は涅槃の実現をもたらすとされる天台止観(=坐禅行)に関する内容を、『威儀経』中にある「坐禅」の語の註釈として用いることにより、『威儀経疏』の実践を通じて涅槃を実現することの可能な論理を構築したのである。
pp.43-59