論文

基本情報

氏名 冨樫 進
氏名(カナ) トガシ ススム
氏名(英語) Togashi Susumu
所属 教育学部 教育学科(中等教育専攻)
職名 准教授
researchmap研究者コード
researchmap機関

題名

「『般若心経』における〈陀羅尼〉の発見――智光『般若心経述義』をめぐって――」(査読有)

単著・共著の別

単著

概要

『般若心経述義(以下『述義』)』は、元興寺所属の三論僧・智光(709頃~770頃)によって撰述された日本初の『般若心経』註釈書である。智光は『般若心経』を『瑜伽師地論』の四陀羅尼説に依拠して解釈する。この分析手法自体は基『般若波羅蜜多心経幽賛(以下『幽賛』)』に先蹤が認められるものの、基が『般若心経』前段部分を法陀羅尼および義陀羅尼、般若波羅蜜多呪を中心とする後段部分を呪陀羅尼と位置づけたのに対し、智光は前段部分を能得忍陀羅尼、後段部分を呪陀羅尼と位置づけている。
 基『幽賛』では、観自在菩薩が舎利子に対して説法を行ったという『般若心経』小本系テキストに対する通説的理解に基づき、仏法および経義・宗義の記憶や分別・判断を中心とした長期の修学による般若波羅蜜多獲得の可能性と、仏によって予め獲得された呪句による速疾の般若波羅蜜多獲得の可能性とが示されている。また、般若波羅蜜多呪=呪陀羅尼が無限の意義を内包する要文であり、禅定を通じて意識を安定させることでその威力を発揮させることができるという認識については『述義』と同一の方向性を示すものの、『般若心経』前段にて展開される修養論との関係性については、あまり意識が払われていない。
 一方、智光『述義』では『般若心経』全体を観自在をはじめとする大乗菩薩と舎利子をはじめとする声聞との双方に対する説法と見なす独特の理解に基づき、『般若心経』前段部分を無所得正観・不二正観という三論家特有の実践プロセスとして理解するとともに、般若波羅蜜多の獲得によって無意味化され、放棄されるべき論理言説として位置づけた。その上で、無所得正観・不二正観の成就を以て般若波羅蜜多呪=呪陀羅尼の威力が発揮されるとされており、『幽賛』と比較して前段部分・後段部分の連関を強く意識すると同時に、実践を意識したかたちでの註釈が行われていると評価できよう。


発表雑誌等の名称

『佛教史學研究』第63巻第1号(佛教史學会)

発行又は発表の年月

202011