日本文学史上における『日本霊異記(以下『霊異記』と略記)』評価としては、編纂者景戒の私度僧としての経歴を重視するものと「薬師寺伝燈住位僧」という官僧としての経歴を重視する二つの立場に大別される。しかし、両者の違いは『霊異記』あるいは景戒が本質的に有している二つの側面の何れを重視するかという点に過ぎず、『霊異記』評価が各論者の恣意性により左右される恐れがある。そこで、本稿では『霊異記』の因果応報思想、及び「天台智者」に対して向けられた関心について詳細に分析することで、仏教思想的特質を重視した客観的な視点からの『霊異記』評価を試みた。
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