『日本霊異記』では、奈良時代の僧・善珠が桓武天皇皇子に転生した説話を、成仏への階梯である「人家家」という仏教概念に基づき解釈する。この「人家家」とは死後二~三回の輪廻転生を経た後の成仏が約束されるという考え方であるが、これと類似した考え方が最澄の即身成仏論にも看取される(『法華秀句』)は興味深い。『日本霊異記』編纂者・景戒が所属したとされる当時の法相宗が、膨大な回数の輪廻転成とそれに伴う無量の菩薩業ののちに始めて成仏が可能となる「歴劫成仏」論を拠り所として最澄・空海主張の即身成仏思想を批判したが、『日本霊異記』における「人家家」への関心は、当時の仏教界において即身成仏(速疾成仏)への根強い関心があったことを示唆する、興味深い事例と考えられる。