論文

基本情報

氏名 高野 毅久
氏名(カナ) タカノ タケヒサ
氏名(英語) Takano Takehisa
所属 総合福祉学部 社会福祉学科
職名 教授
researchmap研究者コード
researchmap機関

題名

「'負の誇大性'が目立つ罪業妄想を呈した高齢期発症のうつ病の1例 演題発表要旨」

単著・共著の別

単著

概要

79歳男性、病前性格は律義、同調性、熱中性、執着性、発揚性。先祖に郷土の偉人を持つ。罪業妄想を主とした三大微小妄想を伴ううつ病で、3回の入院エピソードがある。震災の影響もあり自営する工場の一部を閉鎖、社員が退職したことから、うつ状態となり、「カネがないので給料が払えず、社員と家族を餓死させた。」と警察に通報し、1回目の入院。2回目の入院は、「この30年間に200億の不正な蓄財をした。1兆円の罰金を科せられ、家族は3親等まで死刑。日本の刑罰史に残る。」といった「負の誇大性」(阿部隆明1990、2000、2002)を孕んだ罪業妄想を呈した。
この誇大性は、①莫大な罰金=「前代未聞の」罪(本人的には”罪”=罰)が、間主観的には”罪”<<<罰であり、罪が量的に誇大②罰金刑という刑罰/法を介することで、妄想野が地縁・血縁的共同体から国家へと拡大している点で誇大③死刑という名の国家からの永遠の承認を受け、更に刑罰史に残るというのは、国家という審級と一体化している点で誇大、の3点において認められ、「負の誇大」妄想が認められた期間は、気分はやや軽躁気味で安定していた。
一般に、妄想が成立することで、うつ病の負い目性は外面化され軽減する傾向があるが、本症例の誇大性の特徴は、負い目に対して逆方向に作用することで、本人を自責から救っていたと考えられる点にある。その機制として、経営上の躓き、社員の離職(共同体との間の互酬性の破れ=一体化幻想の喪失体験)を、メランコリー親和型ゆえの罪責感受性から、全き自分の罪として感受せざるを得なかった発病状況に対して、その罪を金(誇大な罰金)に換算し、国家的規模に拡大するという世俗性と強力性、躁性の性格要素が「負の誇大」妄想を成立させ、なおかつ、人生経験による人格統合度の高さから、より低いレベルの統合である躁状態には至らなかったことが考えられる。
2回のエピソードはECTで寛解したが、社長を引退した環境要因の変化もあって、3回目のエピソードは誇大性、国家性が減弱し、妄想形成よりも心気的幻聴に後退したのは、先祖がえりともいうべき人生のテーマ(郷土の歴史に名を遺す)は未達ながらも、身体的機能も低下した自己の現実を受け入れたことと裏腹であると考えられる。

発表雑誌等の名称

日本精神病理学会 臨床精神病理

発行又は発表の年月

201904