東日本大震災による被災により、住み慣れた地域を離れ災害公営住宅に転居した高齢者が、新たなつながりを獲得したプロセスを理解することで、予防に向けた取り組みの在り方について示唆を得ることを目的とした。
2022年8月~10月に東北地方A市B地区にある3カ所の災害公営住宅に居住する高齢者8名(70代~90代、男女それぞれ3名)に対する個別インタビュー調査を実施し、転居から現在までの生活の変化や人との繋がりの変化、これまでの印象に残った思い出、今後の被災者への助言などの質問に対して自由に語っていただき、逐語録を基に、修正版グランデッド・セオリー・アプローチを用い、「被災後に住み慣れた地域を離れ災害公営住宅に転居した高齢者のつながりのプロセス」を分析した。
結果、<転居後にできたつながり>には‘棟の住民とのつながり’‘町内会とのつながり’‘支援者とのつながり’‘外部とのつながり’などがあり、その際にさまざまな‘つながりの機会’が活用されていた。一方、棟での‘生活に慣れる’と、‘外部のつながり’を作っていた。転居後の生活で起きる様々な問題や悩みに対して、‘支援者とのつながり’が役に立っていたが、震災から10年以上が経過し、‘支援がだんだん遠のく’と感じることもある。さらに、<コロナ禍での変化>として‘つながりの機会’が減少していることから‘孤独感’を感じている人もいる。また、‘棟の住人の転出’後の空室は、一般の公営住宅として活用されることから‘棟に住む人の層が変わり’、新たな問題を抱えていた。
災害公営住宅に居住する高齢者が振り返る語りの分析を通じて、住み慣れた場所を離れて新たな場所で高齢者が様々な機会や方法、支援を活用してつながりを獲得していることが分かった。また、長期間の生活の中で新型コロナウイルスの流行や、公営住宅居住者の層の変化は高齢者のつながりの維持を阻害する要因とも考えられ、新たな支援上の課題を生んでいる。