2013年に創設された国家戦略特区制度において、デジタル技術を活用して地域の健康・医療課題の解決に特化する「デジタル田園健康特区」が、2022年に石川県加賀市、長野県茅野市、岡山県吉備中央町の3自治体で始動した。従来の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では解決できなかった深刻な人口減少や少子高齢化、さらにはコロナ禍による地方経済の打撃という背景を受け、デジタル技術による地方活性化を目指す「デジタル田園都市国家構想」を先導する役割を担っている。幅広い分野での未来社会を志向する「スーパーシティ」に対し、本特区は特に地方部が直面する医療課題に重点を置いているのが特徴である。
具体的な取り組みとして、吉備中央町では搬送時間の長さを克服するための救急救命士によるエコー検査の実施、茅野市ではタクシー等による医薬品配送を可能にする貨客混載の規制緩和、加賀市では健康・医療・介護情報を一元管理する医療版「情報銀行」の創設検討などが進められている。また、3自治体共同の提案によって、マイナンバーカードの電子証明書番号を自治体内部で利用することの適法化や、妊産婦の糖尿病治療に関する保険適用の明確化、PHR事業者が健康保険情報を取得する際の制限緩和といった規制改革が実現した。これにより、健康医療情報のデータ連携や一元管理を促進する基盤が整いつつある。
しかし、本特区には課題も指摘されている。まず、実現した規制改革事項が果たして「特区」という枠組みでなければ実現できなかったのかという疑問が残る。さらに、指定から3年以上が経過しているものの、実施された事業が地域にどのような変化をもたらしたのか、客観的な数値を用いた検証や、メリット・デメリットの公開が十分に行われていない。今後は、デジタル化や規制改革の効果を具体的に示し、実施前後の変化を総括することが、持続可能な社会を築く上で不可欠である。