【はじめに、目的】スポ―ツ傷害の要因として,性差や柔軟性・筋力の低下,四肢のマルアライメントなどの内的要因の他,不適切な道具の使用や活動頻度や強度,練習実施場所を含む練習環境などの外的要因が挙げられている.先行研究では,スポーツ活動における指導方法も外的要因の1つと挙げられている.学童期のスポーツ活動では,成人と違い,指導者による管理や指導方針・方法の影響を強く受けることが考えられるが,その指導方法とスポーツ傷害の関係は十分に研究されていない.また,スポーツ活動における暴言や暴力を含む威圧的な言動は世界的にも大きな問題となっており,本邦においても暴言や暴力等による指導者の威圧的な言動が報告されている.我々は,これまで学童期のスポーツ選手が抱える筋骨格系の痛みと指導者からの威圧的な言動(暴言・暴言)の経験との関連を報告しているが,今回,競技レベルに着目し検討をおこなった.
【方法】宮城県スポーツ少年団に所属する小学1年から中学3年(年齢6–15歳)の選手を対象に自記式アンケートを用い,横断研究として実施した.アンケート内容は,年齢,性別,身長,体重などの基本情報の他,スポーツ種目,1週間および1日の練習頻度や時間,競技レベル,指導者の威圧的な言動(暴言・暴力)の経験の有無,現在の痛みの有無と部位,などとした.解析は,多重ロジスティック回帰分析を用い,説明変数を指導者の威圧的な言動(暴言・暴力)の経験の有無,目的変数を痛みの有無とし,交絡因子は,性別,BMI,年齢,1週間の活動頻度,平日と休日の活動時間,チーム競技もしくは個人競技,競技レベル,試合の出場頻度,練習のつらさ,とした.競技レベルは大会出場なし,地区大会出場、県大会出場,東北大会~全国大会出場の4つに層分けして分析した.
【結果】解析対象者5,784名のうち,指導者による威圧的な言動(暴言・暴力)を経験した子供は,それぞれ27.8%(21.9%,12.7%)であった.競技レベル別に層別化分析を行ったところ,地区大会および県大会出場レベルにて,威圧的な言動の経験による痛みの有症率は威圧的な言動を経験していない場合と比較して有意に高かった(オッズ比(95%信頼区間):地区大会レベル1.47(1.22-1.76), 県大会レベル1.28(1.03-1.59)).また,地区大会レベルにて,暴言の経験による痛みの有症率は1.47(1.21-1.79),暴力の経験による痛みの有症率は1.45(1.14-1.86)と暴言や暴力を経験していない場合と比較して有意に高かった.【結論】指導者の威圧的な言動と選手の抱える痛みの間には,地区大会および県大会出場レベルにて有意な関連が認められ,東北大会~全国大会出場レベルでは関連は認められなかった.地区および県大会出場レベルの指導者による威圧的な言動は選手の抱える痛みに影響を及ぼす可能性がある.