【緒言】 子どもが身体を動かして遊ぶ機会の減少が問題となるなか、現代社会において少年団やクラブでのスポーツ活動は、子どもの身体活動量を確保し、体力や運動能力の発達を促す一つの手段となっている。一方、スポーツ活動中の怪我(スポーツ外傷)によって、スポーツから離れなければならない状況となることも少なくない。先行研究により学童期のスポーツ外傷の要因は、身体的側面や環境的側面だけでなく、心理社会的要因の影響も受けることが報告されている。我が国では、古くからスポーツ指導における暴言や暴力(体罰)が問題となっており、指導方法が選手の心理的側面に与える影響は大きいと考えられ、指導者による暴言や暴力が学童期のスポーツ外傷に影響を与える要因となる可能性がある。
【方法】 平成25年度宮城県スポーツ少年団に登録されている小学1年から中学3年までの団員(26,069名)を対象に、郵送法によるアンケート調査を実施した。アンケートの内容は、年齡、性別に加え、少年団の活動中の怪我(以下、スポーツ外傷)の有無、チーム内における指導者の暴言や暴力の有無、練習のつらさ、悩みなどの相談相手、等の項目とした。統計解析は、アンケートの回答が得られた7,333名(回収率28.1%)から欠損データを除いた5,590名に対し、少年団における怪我の有無を従属変数、チーム内での指導者の暴言や暴力をそれぞれ独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行なった。
【結果および結語】スポーツ外傷の経験がある団員は2,601名(46.5%)、チーム内で暴言、暴力があると回答した団員はそれぞれ1,213名(21.7%)、714名(12.8%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果、指導者による暴言を経験したことのない子どもと比較して、指導者による暴言を経験したことのある子どもがスポーツ外傷を有するオッズ比(95%信頼区間)は、1.46(1.27-1.67)(P < 0.001)であった。また、暴力を経験したことのない子どもに対する暴力を経験したことのある子どもがスポーツ外傷を有するオッズ比は、1.49(1.26-1.77)(P < 0.001)であった。さらに、暴言と暴力を同時に考慮したとしてもそれぞれ有意な関連が認められた(暴言:P < 0.001、暴力:P = 0.001)。したがって、指導者による暴言や暴力は、学童期のスポーツ外傷に影響を与える要因である可能性がある。
黒木薫、萩原嘉廣、矢部裕、金澤憲治、小出将志、板谷信行、関口拓矢、土谷昌広、門間陽樹、永富良一