本研究の目的は,看護師の恥の経験を肯定的に意味づける病棟の組織文化とはどのようなものであるのかを明らかにすることである.研究方法論としてエスノグラフィーを用いた.データ収集方法は,一般病院の内科系病棟1か所でフィールドワークによる参加観察および病棟の看護師17名に対してインタビュー調査を行った.収集したデータを質的帰納的に分析し, 看護師の恥の経験を肯定的に意味づける病棟の組織文化を表すテーマを抽出した.
看護師の恥の経験を肯定的に意味づける病棟の組織文化を表すテーマとして,3つのテーマ,8つのサブテーマが得られた.本研究の結果から,個人の失敗を看護スタッフ全員で共有し対処することに価値がある,知らないことを恥じなく聞ける空気がある,間違いの指摘や指示ではなく,看護スタッフに気づきを促すように問いかけることによって,看護師は自分の失敗を臆せず話す,知らないまま患者にケアすることのほうが恥だと考えるなど,恥の経験を肯定的に意味づける組織文化が明らかになった.看護スタッフの期待に答えられるように先回りして動く規範があることによって,人手が必要そうなタイミングを見計らって手伝うという行動規範が病棟組織内に暗黙のうちに形成され,看護スタッフは規範から逸脱して恥を経験しないよう先回りして動く様相が示された.本研究の結果よりインシデントやアクシデントの早期発見が示唆され医療安全,ひいては,医療の質の向上に寄与できることが期待される.病棟の暗黙の行動規範の形成や維持には恥という感情が関係することが明らかになった.くわえて,病棟に恥なく聞ける空気があることで,看護師の恥の経験を内省させ自己成長につながることが示唆された.