芹沢銈介晩年の大作「釈迦十大弟子尊像」(1982年)は、釈迦の10人の高弟を1体ずつ描いたもので、彼の最後の型絵染作品である。日本では、十大弟子の図像は8世紀前後から絵画や彫刻に表わされてきたが、芹沢の作品における10人の各図様は、奈良・興福寺(奈良時代)、京都・清凉寺(平安時代)、京都・大報恩寺(鎌倉時代 快慶作)、神奈川・極楽寺(鎌倉時代)などを参考に制作された。それに加え、同時期に別バージョンとして試作されていた「釈迦十大弟子尊像」は、江戸時代の仏像事典『仏像図彙』を元に検討されている。こうした古作の研究は、図像の単なる模倣ではなく、モチーフの理解や表現の取捨選択を経て、芹沢の芸術世界をより奥深いものにしていった。
pp.63-72