文殊の図像には、子供の姿で表わされる童子形文殊、すなわち五髻・八髻文殊がある。従来、童子形文殊像の流行は、宋の影響による図像拡大の一環として捉えられてきたが、実際には、五台山信仰と童信仰とが五髻文殊によって結びついたためと推測される。中国五台山は文殊の聖地として名高く、唐時代には既に「五」という数によって五髻文殊と関連づけられていた。一方日本では、中世の童信仰を背景として、童子形の五髻文殊に対する関心が高まる中で、五台山と五字(五髻)文殊とを結び付ける思想が注目されたと解することができる。
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