【目的】足関節に焦点を当て,把持力発揮時における足関節角度の変化と下腿筋の筋活動を明らかにし,足趾把持力との関係を検討した。【方法】対象は,健常成人女性11 名(平均年齢20.2±0.4 歳,身長159.3±4.1cm,体重51.6±5.0kg)であった。測定項目は,利き足の足趾把持力と足趾把持力発揮時の電気角度計から得られる足関節角度,表面筋電図(EMG)から得られる大腿直筋と大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭の筋活動量とし,それぞれを同期させ測定した。足趾把持力の測定は,足趾把持力測定器を用いた。また,足趾把持力動作時の足関節角度を測定するため,電気角度計を下腿内側の中央線および足底面への平行線に添付した。表面筋電図の測定には表面筋電計を用い,サンプリング周波数は1000Hz とし,最大足把持力発揮時の筋活動および最大随意等尺性収縮(MVC)を測定した。筋電信号の導出には,解析ソフトを用い,20-500Hz の帯域通過フィルターを適応した。導出された筋電信号は,全波整流処理を行ったのち,最大足趾把持力発揮3 秒間の中間1 秒間の積分筋電(IEMG)を求めた。得られたIEMG は,各筋のMVC の値を基準に正規化を行った。統計処理は,足趾把持力と足関節角度および足趾把持力発揮時の各筋の%IEMG の関係については,ピアソンの積率相関係数を用い,危険率5% 未満を有意差ありと判断した。【結果】得られた測定値は,足趾把持力が15.9±4.3kg,足関節背屈角度が.1±2.1̊ であった。また,%IEMG は,大腿四頭筋が3.2±1.7%,大腿二頭筋が34.3±20%,前脛骨筋が35.4±20.2%,腓腹筋内側頭が51.5±20% であった。足趾把持力と足趾把持力発揮時の足関節角度変化の変数で求めたピアソンの相関係数では,r=0.61(p<0.05)と有意な正相関が認められた。また,足趾把持力と足趾把持力発揮時の各筋肉の%IEMG の変数で求めたピアソンの相関係数では,前脛骨筋と足趾把持力の間にr=0.75(p<0.05),腓腹筋内側頭と足趾把持力の間にr=0.72(p<0.05)とそれぞれに有意な正相関が認められたが,大腿四頭筋および大腿二頭筋では有意な関係が認められなかった。
【考察】本結果から,足趾把持力発揮時に足関節は,中間位から背屈方向に平均3 度とわずかな変化であったが,その角度と足趾把持力との間に正相関が認められた。すなわち,背屈角度が大きいほど足趾把持力が強いことが示された。足関節は下腿関節面が凹型の形状を持つため,中間位から背屈時では足関節が楔としてはまり込み,安定性が得られる。そのため,足関節が背屈位にあるほど,最大足趾把持力発揮には効果的であると考えられる。また,足趾屈曲に伴い,生じる足関節背屈角度には,足趾を含めた前足部を大きく屈曲させる柔軟性が要求される。村田らは,足部柔軟性が高いほど強い足趾把持力を発揮できることを明らかにしていることから,本結果で得られた足関節が背屈位にあるほど,強い足趾把持力が発揮できるという知見は矛盾しない。また,下肢筋の筋活動量では,足趾把持力発揮時の前脛骨筋,腓腹筋内側頭の%IEMG と足趾把持力との間に有意な正相関が認められた。これらのことから,強い足趾把持力を発揮するためには,足関節を背屈させ,足関節固定のため下腿筋群が同時性収縮を行う必要があることが示唆された。
相馬正之・村田 伸・甲斐義浩・中江秀幸・佐藤洋介・村田 潤・宮崎純弥