パーキンソン病統一スケール(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale; UPDRS)は、ブロモクリプチンの治験目的に、Columbia University Rating Scale を基づいてFahnら(1987)が作成した自覚・他覚的評価尺度である。この従来版UPDRSは、信頼性・妥当性の検討も多く行われており、特に治療効果判定として世界中で汎用されている。理学療法領域においても、日本理学療法士協会パーキンソン病理学療法診療ガイドライン第1版(2011)によるとHoehn&Yahr重症度分類に続き、38.8%の論文においてUPDRSが用いられている。
その従来版UPDRSは、2001年から国際運動障害学会(Movement Disorder Society; MDS)において改訂が進められ、Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS)として2008年に発表された。日本パーキンソン病・運動障害疾患学会によって作成されたMDS-UPDRS日本語版も2013年7月にMDSで承認された。このUPDRS改訂の背景には、本評価法が治験を目的とした評価尺度であるため、類似する評価項目の存在、文化的背景の配慮不足、評価基準が曖昧・不明確、評価に時間を要するといった臨床研究や使用している医師からの指摘が主である。改訂に影響を与えた基礎研究としては、Braak仮説が考えられる。Braakらは弧発性PDにおけるα-synucleinの蓄積病変について解析し、病理変化が嗅球と下位脳幹から始まって中脳に至り、辺縁系を経て大脳新皮質に至るとの仮説を発表(2003)した。この仮説に合わない例もあるが、臨床症状の進展とよく合致しており、いわゆる四大症状は氷山の一角で、その背後に多彩な非運動症状が存在するというParkinson’s complexの概念が広まりつつある。
本ミニシンポジウムでは、従来版UPDRSとMDS-UPDRSの相違点の説明、改訂の背景と考えられるBraak仮説、近年に着目されてきている非運動症状に関するトピックスを紹介する。また、日々の臨床に役立つと思われる臨床研究、および症状の日内変動の観点から重要と考えて行っている自身の研究を紹介した。