腎生検後の症例を増やし,更に鼠径ヘルニア修復術後症例を加えて腹部術後における起き上がり動作時の術創部疼痛抑制に,呼吸(主に呼気)運動の効果を再調査した。対象は腎生検後において術創部の疼痛を訴える 78 名(男性 50 名, 女性 28 名, 平均年齢 47.2 ± 19.4 歳)であり,鼠径ヘルニア修復術において術創部の疼痛を訴える 11 名(男性 10 名, 女性 1 名,平均年齢 68.6 ± 15.0 歳)であった。調査は手術の翌日または数日以内に主治医から安静解除の指示が出された後に実施した。方法として,対象にベッド上にて背臥位から端座位までの起き上がり動作を行なわせ,その際の術創部の疼痛について視覚的アナログ目盛り法(以下VAS)を用いて計測した。休憩後,なるべく同様の動作方法で呼吸(主に呼気)運動をしながら起き上がり動作を行うよう指示して,術創部の疼痛を同様にVASで計測した。腎生検後症例および鼠径ヘルニア修復術後症例の双方において、起き上がり動作における術創部の疼痛は呼吸運動が無い場合よりも呼吸運動がある場合において有意に減少した(p<0.01)通常の起き上がり動作において体幹の屈曲運動の際,腹筋群の収縮が求められる。腎生検および鼠径ヘルニア修復術と ,も腹筋群が切開され筋の侵襲を受けており,術創部の疼痛を引き起こすことが予想される。今回この 2 つの術式において起き上がり動作に,主として呼気運動を促すことで腹腔内量を減少させ,それら腹筋群を弛緩させ張力を減少させたことが術創部の疼痛を抑制した要因と考えられた。しかし起き上がり動作の遂行において,呼気運動により腹筋群の張力を発揮困難な状況となり体幹を起こす力が減少することが考えられるが,その代わりにベッド柵を使用して上肢の支持量が増。大させていたのではないかと思われる。通常術後において安静解除直後に理学療法士が関わるのは少なく,その際に医師や看護師から術患者へアドバイスがあると術患者の起き上がり動作における術創部の疼痛が軽減され,ストレスの軽減が期待できる。今後更に胃・肝臓の手術や帝王切開など腹部正中切開する術後において,起き上がり動作時に呼吸運動を促すことで術創部の疼痛の軽減が図られ。ることが期待でき,同様の調査が求められる。
坂上尚穗, 岩坂憂児,中江秀幸,相馬正之,武田賢二,山崎健太郎