本研究では,足関節の角度変化が足趾把持力に与える影響について検討した対象は,健常成人女性 20 名(平均年齢 21.5 ± 1.0 歳,平均身長 158.4 ± 4.2cm,平均体重 52.2 ± 5.0kg)とした.いずれも下肢に整形外科的疾患.や疼痛などの既往はなかった。測定項目は利き足の足趾把持力とした.足趾把持力の測定は,足趾把持力計(TKK3362,竹井機器工業社製)を用いた.足趾把持力の測定肢位 は端座位とし,体幹垂直位,股,膝関節を 90 度屈曲位で,足関節をそれぞれ,背屈位 10°,底背屈位 0°,底屈位 10°の各条件で測定した.この足 .関節角度の設定には,足関節矯正板K2590M,酒井医療社製)を用いた.足趾把持力の測定は,2 回ずつ測定し,その最大値を採用した,結果,足趾把持力は,足関節背屈位が平均 19.0 ± 4.1kg,底背屈中間位が平均 18.9 ± 3.4kg,底屈位が平均 16.8 ± 4.9kgであった.反復測定分散分析の結果,3 群間に有意な群間差(F値=8.5,p<0.05)が認められた.さらに,多重比較検定の結果,足関節底屈位での足趾把持力は,背屈位および.(中間位より有意に低値を示した(p <0.05).本結果から,足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把.持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された。,この要因の 1 つには,足指屈曲筋の活動張力の減少と相反する足指伸展筋の解剖学的な影響が考えられる.足趾把持力に関与する長母指屈筋長指屈筋などは多関節筋であり,足関節底屈により筋長が短縮する.そのため,発揮できる筋力は,張力−長さ曲線の関係から低下したものと考
えられる.また,足関節底屈位の足指の屈曲動作では,相反する足指伸筋群の筋長が伸張されることにより,最終域までの足指屈曲が困難になることから,筋力が発揮できていないことが推測された. さらに,足関節底屈時には,距腿関節において関節の遊びが生じる.このことから,足関 .節底屈位の足趾把持力発揮では,足関節の安定性が不十分となり,筋力の発揮に影響を及ぼしたものと考えられる.
相馬正之, 村田 伸, 甲斐義浩, 中江秀幸, 佐藤洋介