本研究の目的は、震災直後から復興過程における被災者が直面した生活の実態と健康課題を明らかにすることである。対象は、住宅を失うなど大きな津波被害があったため仮設住宅で生活し、かつ、本チームが継続的に現在も健康支援ボランティアを行っている地域の被災高齢者(以下、仮設住宅居住者)と、大きな被害はなかったため被災後も自宅で生活している被災高齢者(以下、自宅居住者)であり、調査内容は、生活および健康への震災の影響についてのインタビュー、活動量、体組成、コミュニティ意識尺度、健康関連QOL、栄養診断である。
これまでの成果として、調査の結果、震災後、治療薬を内服できなかったケースや、睡眠障害がいまでも続いているケース、外出や人との交流の減少、気力低下など、復興の遅れの問題と、高齢者問題が重複し、健康問題が深刻化していることが示唆された。また、活動量低下による生活不活発病のリスクが高いことが示唆され、介護予防のみならず、QOL向上の観点からも、仮設住宅における運動支援などのボランティア活動の重要性が明らかになった。さらに、気力低下や体調の悪化がみられ、精神的影響も深刻化しているが、人との交流を身近に感じることや、近所の人のお世話などが生きがいにつながることが示唆された。
一方、震災の影響をより多角的にとらえるために行った津波被害のなかった地域の自宅居住者の調査では、生活不活発病の問題はみられなかったが、精神的な影響が数年続くことが明らかになった。
小野木弘志、富澤弥生、一ノ瀬まきの、鈴木千明、中村令子、三澤寿美