本論は臨床美術における子どもの作品の見方についての考察である。子どもの作品を見る場合,描画 の発達段階の理解や,子どもの認知能力の把握,そして教育的な効果などを複合的に捉える必要があ る。臨床美術は子どもの造形活動の実践研究をバックボーンの一つとして発展した経緯があるが,現在 展開している子どものプログラムは対認知症高齢者の研究の知見が加わり成立している。優れたプログ ラムとして各所で展開されているが,その実践の要点について改めて検証する機会は少ない。こうした 中,本論においては子どもの表現の見方について取り上げることに意義を持ち,諸論を引用し整理する とともに,臨床美術が蓄積してきた独自の表現の「捉えかた」と比較検討を行った。その上で絵画を構 成する「色彩」「形態」「質感」の側面を取り上げ,独自のアートプログラムとの関連や,主体的な表現 を促す構成との関係を含め,一般的な絵画の見方にとどまらない臨床美術の複合的な視点を改めて明示 した形となった。