【目的】現行の通所型介護予防事業では、自治体による直営及び委託により運動器の機能向上プログラムが提供されている。委託の場合、事業所が有する専門性などの特色を生かした多様な介護予防プログラムの提供が期待されると同時に、実施内容の質を確保、向上させていく必要がある。S市では平成20年度より委託事業所を訪問し、「運動指導実施項目確認リスト」(以下チェックリスト)に基づき、プロセス評価を実施している。本研究ではその結果と課題について報告する。【方法】チェックリストは基本確認事項(7項目)、健康状態(9項目)、運動内容(8項目)、運動中の対応(10項目)、自立性(4項目)、職員(7項目)、環境整備(3項目)、安全管理(4項目)の8領域、52の細項目で構成されている。本研究では、平成26年度までに訪問した16事業所を対象に、チェックリストを用いて、各項目について実施、一部実施、未実施の3段階で評価した結果を集計、分析した。【結果】事業所の種別は、特別養護老人施設、介護老人保健施設、介護予防通所介護施設、機能訓練特化型介護予防通所介護施設、病院、運動施設であった。各事業所の自己評価に基づく実施該当率はほぼ100%であったが、訪問で確認した実施該当率は平均65.4%(38.5~90.4%)であった。領域毎にみると、安全管理(82.8%)、職員(82.1%)、健康状態(75%)の順に実施該当率が高かった。一方で、運動指導に関わる項目は5割程度の実施該当率であり、「生活機能向上への意欲、自立支援」、「目標の設定・見直し」、「個別性の重視」などの基本確認事項については4割弱の実施該当率であった。実施該当率が特に低かった細項目は、「運動の負荷・難易度を適切に選択すること(12.5%)」、「参加者が運動を理解できるように、動作の目的や効果を説明すること(18.8%)」、「改善後も自主的に状態維持ができるような支援をすること(25%)」の順であった。【結論】チェックリスト実施該当率には事業所間で大きなばらつきが見られた。今後はプロセス評価結果の公開や、各事業者の判断で実施されてきた運動プログラムの標準化、各事業所の不得意領域を強化する研修内容を考えることが必要である。
日本公衆衛生雑誌、63(10)p.643