本稿では法規範あるいは道徳規範のように、定式化された規範原理によって説明可能なルールは、社会生活の、ごく一部分を規律するにすぎない。むしろ、社会ルールの大半は明示化不可能な、ないしはきわめて困難な黙示的ルールであって、「人の心」もまた、定式化された原理の水面下に、膨大な黙示的ルールの世界を有しているものと考えることができる。そのため、裁判過程、法制度の基底層の分野を構成する要素として「リスク感性」を磨くことが介護サービスにおける法分野においても危機管理の中核を占めているのである。すなわち、介護サービスにおいて必要なことは、金銭賠償という「保険管理」のみならず、介護事故を軽減させたいという施設側の「人の心、和」を「心の危機管理」 の中核にする視点こそが、介護事故の軽減につながる点を明らかにした。
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