論文

基本情報

氏名 菅原 好秀
氏名(カナ) スガワラ ヨシヒデ
氏名(英語) Sugawara Yoshihide
所属 総合福祉学部 福祉行政学科
職名 教授
researchmap研究者コード
researchmap機関

題名

「苦情とリスクマネジメント -責任無能力者の監督義務者の責任と介護事故裁判例を踏まえて-」(指名依頼)

単著・共著の別

単著

概要

本稿では「サッカーボール事件」と呼ばれる責任無能力者である未成年者が起こした事件において親権者の監督責任を否定した最高裁判例(最判平成27.4.9 判例時報2261・145)がある。学校の校庭から転がり出たサッカーボールをよけようとして転倒し、約1年半後に死亡した80代の男性の遺族が、ボールを蹴った小学生(当時11歳)の両親に損害賠償を求めた裁判で、最高裁は遺族側の請求を棄却した。遺族としては、小学校側の責任として、国家賠償法1条で教員等の過失と、国家賠償法2条で校庭の施設についての営造物責任を町側の問題とし、町を相手に損害賠償の責任を追及すれば金銭賠償は容易であると思われる。なぜ小学生の両親のみを原告とし、金銭賠償請求の認容が容易な小学校側である町を相手に訴訟を提起しなかったのかが問題となっている。この理由について、明確に言及した文献はなく、訴訟過程の当事者のコメントを分析して原因究明を探求し、「JR東海認知症徘徊事故訴訟」の上告理由と「介護事故の苦情の要因」を参照して、苦情とリスクマネジメントについて考察した。思うに、この2つの訴訟は、事故後の初期対応の不誠実さが苦情となり、相手方の不満や怒りを増幅させているのである。被害に対する相手方に対する心構え、共感性などの相手のことに配慮した自己の対応方法が何よりも大切である。苦情の初期対応がしっかりなされていれば、今後、同種同事件が発生しても訴訟まで発展しない可能性がある。苦情の初期対応において、謝罪など誠意のある対応があれば、許し難いという感情が軽減され、苦情は消失し、許してもよいという感情となり、和解へと導くのである。この点で、「JR東海認知症徘徊事故訴訟」で自分だけが鉄道会社から訴えられているというネガティヴな発想ではなく、全国で、認知症で苦しんでいる家族の代表という考えから訴訟を提起するポジティヴな発想があったからこそ、勝訴判決につながったのである。一方で、「サッカーボール事件」では自分の息子が蹴ったサッカーボールが結果的に被害を与えてしまったと謝罪の意思が両親にあれば、訴訟まで発展しなかったのである。今後は、事故は必ず起こるものであり、事故後の対応に相手方との感情を共有しながら、誠意をもってポジティヴに対応することがリスクマネジメントにとって重要である点を明らかにした。
総p.10

発表雑誌等の名称

ソーシャル・リスクマネジメント学会 会報 『実践危機管理』第32号 (本稿は2016年12月3日 桜花学園大学で開催された ソーシャル・リスクマネジメント学会における報告を一部修正し、記述したものである。)

発行又は発表の年月

201707