この研究の目的は、専攻分野がどの「他の分野」を必要としているかについての傾向を探ることである。各専攻分野が異なる分析手法や、異なる知識の分野を必要としているなら、学士課程教育の目的の中の「数量的スキル」などの汎用的能力や、「市民としての社会的責任」などの、人や社会に対する 態度・志向性の教育を行うために必要な分野として、教育課程に必要だと認識していると考えられる。
本研究では、日本学術会議が作成した専攻分野ごとの「大学教育の分野別質保証のための教育課程 編成上の参照基準(以下「参照基準」)を分析の対象とし、経営学、言語・文学、法学、家政学、機械工学、数理科学、生物学、土木工学・建築学、 経済学、地域研究、歴史学、材料工学、政治学、地理学、文化人類学、社会学、心理学、地球惑星科 学、社会福祉学分野、電気電子工学分野の 20 の専攻分野の「参照基準」の文章中に登場する他分野の名称を数え、その度数データを元に傾向を因子分析を行った。その結果、第1因子は「土木工学建築学、文化人類学、法学、言語.文学、社会学、政治学、機械工学」で因子得点の高い他分野は「社会科学、哲学」。第2因子は「歴史学、地域研究、地理学、社会福祉学、法学、社会学」で因子得点の高い他分野は「経済学、政治学、文学、法学」。第3因子は「生物学、地球惑星科学、機械工学、材料工学」で因子得点の高い他分野は「科学、物理学」。第4因子は「経済学、電気電子工学、数理科学」で因子特テインの高い他分野は「数が宇、統計学」。第5因子は「家政学、経営学、心理学」で因子と点の高い他分野は「工学」という結果となった。これらについて「参照基準」の文脈より、第1因子は「市民としての社会的責任」などの「態度・志向性」について「他分野」を利用して補うため。第2、第3、第4因子は、専攻分野の理解に必要な基礎的な領域としての「他分野」への言及。第5因子は専攻分野が必要とされる他分野(「心理学」が必要とされる「人間工学」)や、自分と他分野の結合(「経営学」と「工学」が結合した「経営工学」)という意味での「他分野」という解釈を行った。
pp258-259