現在,高齢者福祉施設では,障害を有する高齢者の数が増加している.高齢者福祉施設で使用されている車いすの多くは,必要最低限の機能しか持たない標準型車いすであり,病院等で一時的な搬送を目的に使用されるものである.入所期間の長期化および重症化が進んでいる高齢者福祉施設においては,高齢者の身体状況の変化に応じた調整可能なアジャスタブル型車いすが望まれる.しかし,アジャスタブル型及びモジュラー型車いすの多くは,海外仕様でありサイズが大きく,高齢者福祉施設環境との適合性が充分に考慮されていない.また,現状の高齢者福祉施設においては,車いすを個々の利用者に“適合させる”という発想が乏しく,移動手段としての車いすさえあれば良いといった考え方が,未だに主流であると考える.すなわち“人に物(車いす)を合わせる”のではなく,“物(車いす)に人を合せている”ことに最大の問題点がある.そこで本論では,上記課題解決に向けた車いす適合支援(生活モデルと医学モデルの双方の支援)の重要性を示すと共に,施設の現状を踏まえた車いす開発について解説する.
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