本研究では,ベトナムの枯れ葉剤被害者とその家族を対象にインタビュー調査を行い,被害者家族の置かれている生活実態を社会科学的視点(ジェンダー,人間の安全保障,国際協力,社会経済等)から把握・分析した。また、特にメインインタビューでは表出し難い世帯主の妻や長男の嫁への直接の聞き取りが成功したことで、新たに明白となった過酷な実情に焦点を当てた。訪問した殆どの世帯において経済的圧迫による働き手の不足が生じ,その結果、枯れ葉剤被害者の介護のみならず,乳幼児の育児や高齢者の介護および家事の全般を家族の特定女性がひとりで担う状況が常態化していた。またその身体的な負担に加えて,女性であるがゆえに避けられない妊娠・出産に伴う不安や,事実無根の評価や差別に晒される精神的苦痛、さらに次なる世代にいつ健康被害が生じるかという終わりの見えない恐怖に怯える現状に触れている。