本論文は、企業福祉研究における本質論とその本質ゆえに生じてきた新しい運営管理の方法が歴史的転換期にあることを問題提起したものである。近年の経済のグローバル化やIT・AI化の急速な進化、そして資本の流動性が高まる下で企業の経営環境が大きく変化し、その環境変化に適応するための企業戦略、人材戦略、そして福利厚生戦略の変化が、具体的に「効果」を求めてきた時、企業福祉の本来の役割、機能、また効果が本来の目的に沿うものとなるよう「調整」されてきている点を指摘した。それは従業員とその家族のニーズについての議論を経てシステムが適応していく経緯を論じるものとなったが、それがより「戦略的」になっている点に注目している。企業福祉の本来の運営管理では、主に企業の人事労務管理部門が担当し、社宅や寮の管理、給食提供などの一部の現業部門の業務を外注化することを伴いながら従業員福祉を労使合意の下、もしくは企業の必要性の下で展開してきた。しかし、バブル経済崩壊以降、減量経営とIT化の下でのコスト削減と運用の合理化の進展は、多様化する従業員のニーズの適応するための見直しが進み施策運営についてアウトソーシングが進められてきた。本論文では、企業福祉の本質を現代にあって改めて確認し、企業経営上の必要性、戦略化の時代的ニーズに適応した管理運営の在り方が、IT化を背景としたアウトソーシングビジネス企業の誕生、ベンチャー企業的な新たな取り組みを背景に可能となってきていることを指摘した。1990年代半ばに一部の企業で導入されたカフェテリアプランを皮切りに始まったイノベーションが、2020年代半ばにはアウトソーサーによる戦略的サービスの登場で歴史的変化を遂げていて、さらにそれは「次なるイノベーション」を生む可能性をもっている点を論じている。