2023年5月8日より新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した。感染症対策は季節性インフルエンザなどと同程度の予防・治療対応となり、結核やSARSなどの重篤な状態に陥る2類感染症相当での緊急対応だった厳重な規制も緩和されるようになった。その後、半年余りが経過した中で新型コロナウイルスの変異株が確認されるなど感染拡大は継続しているものの、国民の日常生活が次第に活発化し、経済活動も回復してきた。以上のような状況下で、企業も日常的な業務を再開し、「緊急的な対応」から「恒常的な対応」へと次第に活動の範囲を広げてきた。しかし、「コロナ禍」では、緊急的な対応としての「在宅勤務」を徹底して推し進め、そのための環境整備やシフトの改革に取り組むなど、必死に環境に適応する過程で「非日常」が「日常化する」という動きが見られるようになってきた。まさに非常事態での試行錯誤が「働きやすさ」への知恵を絞り出す作業となり、それが企業を維持していくに当たって重要な「配慮」だと気づいたように思われる。本論文は、コロナ後において意識づけられてきた「働きやすさ」への配慮が、それまで数多くの「掛け声だけだ」とも批判されてきた「ワークライフバランスの実現」を促すものとなってきた点に注目した。すなわち、緊急対応による在宅勤務とそれをサポートする諸施策が、従業員の定着化を図る支援策ともなり、また従業員の働き方の選択肢を卑下る中で、新たなワークライフスタイルを提案するほどのインパクトのあるものになったのである。本論文では、「避けて通れない対策」が「新たな関係の再生」に寄与し、人手不足を解決しようという単純なものではなく、「人的資源経営」という新たなコンセプトによる考え方のもとでの「ウエルビーイング」、企業では特に「エンゲージメント」と呼ばれる考え方を実現する手立てとして進んできていることを実際の企業の取り組み方をもとに検討したものである。