本論文は、企業福祉が「労働力確保・定着」に貢献する一方で、「労働力の再生産過程」に関わる本質的な機能を発揮することで得られる「労働力の回復」や「労働能力の向上」に寄与させようとする今日的日本型福祉の動向を読み取ろうとするものである。すなわち、企業福祉の労働力の再生産過程に関わる在り方の多様化と日本型福祉での新たな役割について論じたものである。まず、従業員福祉費用の動向を企業が負担する法定福利費の動向とそれに連動して合理化が常に求められてくる法定外福利費の変化に着目している。費用動向の背景には、それぞれの時代における「ニーズの変容」があるが、本論文では1980年代後半からのバブル期を経た企業福祉の動向を分析した上で、そこに生じている地殻変動とも言うべき人的資源管理上の変化の特徴を概観した。その上で、企業福祉への投資に陰りが見える一方、生活支援的役割を担う企業福祉の労務観的役割の重要性に着目し、そこでの創意工夫の動向を捉えた。特に1990年代半ばにおける日経連（現・日本経団連」の「新時代の『日本的経営』」における「雇用ポートフォリオ」の影響を取り上げ、これによって生じてくる企業福祉での対応の特徴を分析した。そこで次々と打ち出されてきた諸々の対策は、企業が戦略的活用が求められている「人材への投資」とも言えるが、そこには従業員が求める「自由選択」と企業の「管理介入」の矛盾と統合への努力が見られる点に言及している。
