わが国における若年労働力人口の減少は顕著であり、今日、社会全般に様々な課題をもたらしている。なかでも人手不足の問題は深刻であり、中小零細企業は言うまでもなく、大企業においても人材確保に懸命に取り組んでいるものの思うよういかない事態が続いている。大企業では、初任給の引き上げや休日・休暇の拡大、福利厚生制度の充実を図る動きが多くみられ、生産性向上の源泉とも言える人材に対する投資が十分に行われているのかを情報開示する「投資条件の改革」を背景とした「人を大切にする経営」の在り方が急速に広がってきている。
一方、それは企業における「従業員の定着」の問題としても重視されてきていたことから、リテンション研究(従業員の定着とモチベーションの維持等の研究)においても基本的労働条件の改善ばかりでなく、福利厚生の問題が注目されるようになってきた。
本論文は、以上のような企業福祉への注目の背景とリテンション研究での「効果」の問題を取り上げ、企業福祉(福利厚生)による戦略的取り組みと機能化に向けた制度構築、管理運営のシステム化など、創意工夫の最前線の実態を分析し、その動向を捉えた。すなわち、「機能化」に向けたアウトソーシングの活用はもちろん、費用の拠出が難しい中小零細企業の工夫にも着目した。それは福利厚生の「外部化」の一方で、新たな「内製」への努力を見出すこととなり、そこに「人を大事にする経営」の重要ポイントを見出すことができた。