2019年12月に第一報が世界に配信された中国武漢市の未知なる感染症は、2020年には世界に広がる新型コロナウイルス感染症として広く認知されるようになってきた。しかし、その感染力の強さ、また死亡者が多く出てきたことで中国はもちろんのこと、欧米をはじめとした世界各国が大規模な感染対策を行い、その後に開発されたワクチンによる予防接種の取り組みによって次第に対策の効果が表れるようになってきた。今日まで、その間における企業や行政、また学校を始めとする公共的な空間においても徹底的な感染予防対策が継続され、一方で飲食や観光分野、交通や販売領域での顧客の減少がこれらに関わる営業店舗の売り上げに大きな打撃があり、非正規雇用は言うまでもなく、正規雇用まで解雇せざるを得ない状況を生むこととなった。その過程を経て今日、新型コロナウイルの落ち着きに対応した経済活動の回復に伴い、経済活動の活発化に伴う雇用状況の改善がもたらされてきたものの、飲食業は言うまでもなく、旅館・ホテルなどの観光業分野では雇用が確保できず、さらに若年労働力人口の急速な減少に伴った人材不足が深刻な問題となってきた。大企業においては一部において賃上げができるものの、中小零細企業では多額の負債で賃上げする力には限界があり、いよいよ人材の確保に困難が伴うものとなってきた。体力のある企業においては優秀な人材を確保しようと大幅な賃上げを提示し、健康経営、福利厚生の充実、ウエルビーイングを実現する「人的資本経営」を柱とする経営戦略が打ち出されるようになってきた。本稿は、企業をめぐる経営環境の急速な変化の中で、二極化する人的資源管理状況を把握し、そのトレンドの中に見出される人材確保の困難性を乗り切ろうとする取り組みについて分析し、考察を試みた。
