本稿では、近年における世界での様々な出来事に注目し、なかでもアメリカの「トランプ現象」と呼ばれる事態での「群集心理」に着目した。いわゆる「適切な判断」において必要となる「事実把握」に対する情報の信頼性が低下する中で、「何が真実か」という問題がクローズアップされてきている点を捉え、それは「身近なさざ波のような現象」から広がり、「まるで事実かのようなものになっていく」という点を論じた。すなわち、群集心理の底流にある「欲求」が、事実とは異なったところから出発し、いつの間にか「事実ではないが事実だとする判断」に結びついていく。その「前兆」とも言える事態が我々の周辺に「さざ波」のようにして存在し、広がっていく点を留意する必要がある。フランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンは、フランス革命、またナポレオンの出現などの歴史的事実をもって「群衆心理」の特徴とその問題点を分析し、「付和雷同など未熟な精神に伴う群集の非合理的な行動」に大きな問題があるとした点を取り上げ、歴史的に民主主義が生まれ、進展し、今日においては「群衆」が歴史をうごかす時代となっている事実を視野に入れた時、この「さざ波」が「大波」へと繋がる可能性がある。IT時代においては瞬時に情報が世界を駆け巡るのであり、一方で非対称とした「情報遮断」という世界での問題があることも視野に入れると、そこには流動的で不安定な国際社会があり、我々の身の回りの現象もそこから逃れられないことを論じた。
