「『自己啓発を求める社会』を考える」

労働開発研究会 『労働と経済』 №1594

本稿は、自己啓発本の売れ行きが好調であることに着目し、多くの人たちがそれによって自分自身を勇気づけようとする姿を批判的に検討している。それは「自己責任」が強調される社会において過剰適応しようとする人たちの在り方でもあるが、自らの判断と責任を内側に向けて突き詰めることで結果的に心を病む人たちが増える可能性を指摘している。「考え方次第」とする自己啓発本は、事の本質的なところを放置したまま、もしくは改善を阻む要素をそのままにするところに課題がある。しかし、マクロ的にみれば、自己責任の名のもとに国や企業などの主体がもつべき責任を手放し、個人に移行させる過程で生じている現象であり、それが2000年代に入って小泉政権下で強調された「自己責任論」から始まっていることを指摘している。「自助論」がそれであるが、それは社会保障において色濃く現象化しており、介護・医療・福祉などの後退による不安などが自助、また失業への不安や思い通りにならないつらさが自己啓発を求める社会の根っこにあることを論じた。
pp.34-35