本稿は、2015年初頭の春闘において政府の要請に応えた大企業の賃上げが注目されたことを取り上げ、その歪んだ在り方から生まれた「政治主導の賃上げ」が、企業に対して「やればできるじゃないか」という世間一般の声とともに「労働組合なんかいらないんじゃないか」という声をも生んだところに着目した。それは労働組合弱体化への印象づけとしての効果を果たしたとも言え、アベノミクスの効果をさらに実績として積み上げる結果となったことを指摘した。しかし、一方で雇用労働者の多くが働く中小企業での賃上げは全く振るわず、実質的な賃下げが進んでいる中で円安の影響もあって今後も苦しい状態が予想されている現実を分析した。すでに「トリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる)」の経済理論が日本の場合には機能しないことが明らかになっているため、「中間層の厚みを増すこと」の政策が未来への責任を果たす政策ではないと問題提起した。
pp.34-35