日本的雇用慣行が揺らいでいると言われてから久しい。それまでの年功序列型処遇や長期安定雇用(終身雇用制)などの安定したシステムが動揺し、今日では非正規雇用の増加による雇用の多様化が職場に様々な問題引き起こしている。それはまさに「雇用の溶解」とも言え、「流動化」を促している。その要因は何か。もちろん、グローバル化した社会での企業間競争の激化は言うまでもないが、コスト競争を強いられる場合に注目されたのは「法定福利費の上昇」であった。それは少子高齢化の急速な進展による社会保障費用の増加、年金保険や医療保険の財源不足がもたらす財政難を意味している。その財政難を回避する方法とは支出の抑制と収入の増加をもたらす保険料の引き上げに他ならない。強力な保険料引き上げというコストプッシュが雇用の溶解と流動化の根本的な原因にあることを今一度整理し、わが国が取り組まなければならない先にあるものをしっかり見極めるべきことを論じた。
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