心理臨床家の多くは,セラピストとクライエントが椅子に坐して対話をし,セラピストがクライエントに癒しをもたらしていると発想しがちである。しかも普段椅子に坐っていることすら意識しないことがほとんどであり,椅子は我々の前意識へと追いやられてしまっている。本論では椅子の臨床的意義を論じたものである。本研究では椅子を幾つかの次元に分けて考察を行った。その結果,零次元としての椅子が居場所としての定位感覚を賦活させ,一次元としての椅子が心理臨床の妙味である傾けることを保証する。二次元としての椅子がセラピストとクライエントの距離を規定し,三次元としての椅子が底面の不安定性を縮減し,より安全にクライエントの話を聴くことを可能とする。そして三次元抽象としての椅子が面接室をセラピューティックな空間に変容させることが示唆された。