本論では,家族造形法という家族療法におけるユニークな芸術療法の一種を,芸術論の観点から解き明かす試みを行った.本論では,カンディンスキーの<舞台コンポジション>が最も近い芸術領域であることを見出し,<舞台コンポジション>の隠喩を用いて家族造形法を捉えることで幾つかの新たな知見を得ることができた.アセスメントの側面では,彫刻作品を抽象画の素描に変換するプロセスを加え,幾何学図形のコンポジションを手掛かりに家族関係を査定する方法が提案された.治療技法の側面では,彫刻体験は一見すると静的な表現と見なされがちであるが,その実際は運動の感覚や内触覚を体験している「活気をおびたる静止体」なのであり,その内的体験を言語化していくことが臨床的に意義あることが示唆された.また鑑賞体験に関しては,彫刻鑑賞は存在の力を感じる実存的体験になりうること,そして家族造形法が三次元抽象という媒体を用いている以上は,その体験の強度は神秘的な水準にまで達しうる可能性は避けられないことが示された.また家族造形法を正当な彫刻作品として捉えるならば,心理臨床家による外部からの無許可な修正は作品への冒涜行為となりうること,外部の美の基準に照らして手を加えることのないよう,彫刻家が見出した新たな美に敬意を示し尊重する姿勢が求められることが示された.最後に抽象舞台芸術としての<舞台コンポジション>と家族造形法を位相幾何学的に俯瞰してみると,中心が空洞の「中空構造」が複数の水準で見出されることが示された.彫刻鑑賞体験を通して存在の力を強く感じるほど,その背面である「中空」としての不在が一層際立ってくること,中空のエネルギーが失われ文字通り無である状態に気づくと,中心へのなにものかの侵入のリスクがありうることにも備えるべきことが示唆された.以上のように<舞台コンポジション>の隠喩を用いて家族造形法を見立てることで,体験が意味するところの本質に多少なりとも接近することができたと考えられる.